先に結論を3行で。
- クラウドの文字起こしは危ないものではありません。大手の取り扱いは公開されていて、「学習には使わない」「保存しない設定がある」と明記されています。
- ただし「守られている」と「そもそも送っていない」は別の話です。社内規程やお客様との契約が禁じているのは、たいてい後者——外部に送ること自体です。
- ローカルを選ぶ理由は速さではありません。当社の実測では常駐させれば0.5〜0.8秒で、実務では困りません。選ぶ理由は「説明しなくて済むこと」です。
「文字起こし ローカル」で調べている方は、たいてい会社の決まりか、お客様との約束が理由だと思います。この記事では、クラウドに上げたときに実際は何が起きているのかを公開資料の原文で確認し、そのうえでローカルにする意味を整理します。確認日:2026年8月17日。
まず、クラウドに上げると何が起きるか
手元で録った音がインターネットを通ってよそのサーバーへ渡り、そこで文字になり、文字が返ってきます。この経路自体はどのクラウド型サービスでも同じです。
問題は「渡ったあと、その音と文字はどう扱われるのか」です。これは各社が公開しています。読んでみます。
OpenAI(APIの場合)
OpenAIの開発者向け資料には、こう書かれています。
data sent to the OpenAI API is not used to train or improve OpenAI models (unless you explicitly opt in)
(OpenAIのAPIに送られたデータは、明示的に同意しない限り、OpenAIのモデルの学習や改善には使われません)
そのうえで、不正利用を監視するためのログについて「すべてのAPI利用について不正利用監視のログが生成され、最大30日間保持されます」とあります。さらに、対象となる顧客向けにZero Data Retention(保持しない設定)が用意されていて、承認されればこのログからも除外されます。
Aqua Voice(音声入力アプリの場合)
音声入力アプリの例として、Aqua Voiceの公式のよくある質問にはこうあります。
Audio is processed in the cloud and is never sold or shared. By default, transcripts may be retained to improve the model; switch on Privacy Mode and they aren’t
(音声はクラウドで処理され、売られたり共有されたりすることはありません。初期設定では、モデルの改善のために文字起こしが保存されることがあります。Privacy Modeを入れれば保存されません)
あわせて、なぜクラウドなのかも明言されています。「Avalonをクラウドで動かすことが、約450ミリ秒の速さと精度を実現するための意図的な選択です」。速さのための設計であって、隠しているわけではありません。
読んで分かるのは「守られている」であって「送っていない」ではない
ここが本題です。上の2つはどちらも誠実な書き方で、実際に守られていると考えて差し支えありません。それでも、書いてあるのは「送られたデータをどう扱うか」の話です。送っていること自体は変わりません。
そして、多くの職場で引っかかるのはまさにそこです。
| よくある決まりごと | クラウド型で通るか |
|---|---|
| 顧客情報を外部のサーバーに送信してはならない | ✕ 扱いの良し悪しに関係なく引っかかる |
| 生成AI・クラウドAIの業務利用を会社が禁止している | ✕ 同上 |
| お客様との秘密保持契約で第三者提供を禁じている | △ 委託先として整理できるかを法務に確認する必要がある |
| データの保存場所(国)が指定されている | △ サービス側の対応次第 |
士業、医療、自治体、金融の方から相談が多いのはこの一点です。「安全かどうか」を議論する前に、「送ること自体が禁止されている」という壁があります。
ローカルにすると何が変わるか
手元のパソコンの中だけで文字にする(ローカル)なら、この議論そのものが要らなくなります。変わるのは次の4つです。
- 説明しなくて済む … 「どこに送っているのか」「保存されるのか」を確認する作業が丸ごと消えます。稟議も通しやすくなります。
- インターネットが無くても動く … 機内、地下、電波の届かない現場でも同じように使えます。
- 相手の都合で止まらない … サービスの終了、料金改定、仕様変更の影響を受けません。
- 通信量を気にしなくていい … 長い会議を丸ごと文字にしても通信は発生しません。
「ローカルは遅い・重い」は本当か
よく言われますが、当社が実際に測った数字はこうです。
| やり方 | 1回あたりの時間 |
|---|---|
| コマンドを都度呼ぶ(毎回モデルを読み直す) | 9.4秒 |
| 常駐させておく(読み込みっぱなしにする) | 0.5〜0.8秒 |
測定環境は MacBook Air(Apple M5・メモリ24GB)、モデルは Whisper large-v3-turbo(547MB)です。「ローカルは遅い」と言われるものの大半は、毎回モデルを読み直しているだけで、常駐させれば1秒を切ります。
容量も、量子化(数値の精度を落として軽くする加工)をすれば約550MBで収まります。写真フォルダより軽いくらいです。くわしくはWhisperをローカルで動かす文字起こしにまとめました。
正直に書くと、ローカルにも弱点はあります。
- 話しながら文字が出る形にはしにくい … Whisperは30秒のかたまりを前提にした作りです(Whisperでリアルタイム文字起こしはできる?)
- 最初にモデルを取り寄せる手間がある … 数百MBのダウンロードが1回だけ必要です
- 固有名詞は自動では直らない … 辞書に登録する仕組みが要ります(これはクラウド型でも同じです)
どう選ぶか
- 社内に制限がなく、速さと精度を最優先したい → クラウド型で問題ありません。上に引いたとおり取り扱いは公開されていますし、保存しない設定も用意されています。
- 自分で組んで理解したい → whisper.cppがMITライセンスで公開されています。商用利用もできます。
- 外部に送れない決まりがある/説明の手間をなくしたい → 最初からローカルで完結する製品を選ぶのが早いです。ローカルで完結する音声入力アプリロカオンがあります(当社製品です)。音声も文字も端末の外に送らず、Whisper large-v3-turboの量子化版(約550MB)を常駐させています。人名や社名を登録する「じぶん辞書」があり、画面もメニューも日本語です。年払いで年6,600円(月あたり550円・税込)です。1日10回まで(1回1分まで)なら無料で使え、最初の10日間は回数の制限もありません。
ロカオンも、購入後はライセンスの確認のため1日1回・数十バイトの通信をします(音声や文字は送りません)。つながらない日が続いても14日間はそのまま使えます。ライセンスキーを入れていない間(お試し中・無料版)は、この通信そのものがありません。対応はmacOS 26以降(Apple Silicon)のMacで、Windowsには対応していません。
この記事の調べ方
- OpenAIのデータの扱い(学習に使わない・不正利用監視ログを最大30日・Zero Data Retention)はOpenAI開発者向けドキュメントの記載(2026年8月17日確認)。引用文は原文のままです。
- Aqua Voiceの音声とデータの扱い、およびクラウドを選んだ理由は公式のよくある質問(同日確認)。引用文は原文のままです。
- Whisperのライセンスとモデルの大きさはOpenAIの公式リポジトリとwhisper.cppの公式リポジトリ(同日確認)。
- 9.4秒/0.5〜0.8秒は、当社が2026年8月に実機で測った値です。環境は MacBook Air(Apple M5・メモリ24GB)/large-v3-turbo(547MB)。他の環境で同じ数字になることを保証するものではありません。
- この記事は法律上の助言ではありません。社内規程や契約の解釈は、必ず自社の法務・顧問の先生にご確認ください。
本メディア「ロカオン研究室」は、ローカルで完結する音声入力アプリ「ロカオン」を開発する合同会社ヒバナが運営しています。他社製品も、当社製品と同じ物差しで確認して書きます。記事中の他社製品の権利は各社に帰属します。

